N国党の迷走 シングルイッシュー政党が、その「シングルイッシュー」を投げ出したら……

NHKから国民を守る党(以下「N国」)が迷走しているようです。直接的には、党内の人間が応援演説の際に、その順番をめぐって口論したという動画が配信されてしまったということに端を発していますが、私としてはもう少し、いや、かなり本質的な問題が含まれているかと思います。

 

第一に7月の参院選で勝利し、国会議員となった立花代表が、早くも10月にわざわざその職を放り出して埼玉選挙区の補欠選挙に出馬した段階で、N国の方向性に大いに疑問が呈されます。

 

このことを考える際、そもそもなぜN国が国会で議席を得たか、言い換えれば、なぜ比例で99万票をも有権者から得ることができたのかという原点に立ち返る必要があります。

 

ご存知の通り、N国の公約はただ一つ「NHKをぶっ壊す」、すなわち、「NHKのスクランブル放送を実現する」ということです。これは英語で「シングルイッシュー(single issue)政党」、すなわち「単一争点政党」と言われます。英国の離脱党(Brexit Party)もその一つです。

 

N国の争点=公約は、現行の放送法第64条の規定により、「受信設備を設置した者」は、NHKを見ようが見まいが、とにかく受信料を払わなければならない(より正確に言うと契約しなければならない)、という制度を廃止し、通常の有料チャンネルのように「受信料を払った者のみが見ることができる」制度に変更しようというものです(これを「スクランブル放送」というそうです)。

 

最近の司法判断では、あくまでもおまけのはずのワンセグ機能が付いた携帯ですら「受信設備の設置」とみなされ、契約義務が確認されています。しかも、今後、スマホやPCまでもが「受信設備」とみなされ、とにかく「見ようが見まいが受信料を取られる」という、常軌を逸した状態です。

 

これについて、2017年12月に最高裁判所が違憲ではない、すなわち「契約自由の原則」に反しない、という判断をしました。あくまでもそうした制度=法律を作るのは国会の立法裁量の範囲内、という判断をしたのです。

 

私自身は、最高裁に少しは期待していたのですが、まぁ「妥当な」範囲内の判断となりました。では、その国会でこの法律を変えてやれ、ということで出てきたのが、また国民の期待を背負って出てきたのがN国だったといえるわけです。

 

この論理について、立花氏自身も選挙の際の政見放送で、非常にわかりやすく説明しており、このことが同氏の当選の背景だったのでしょう(それが私も投票した理由)。それは非常に単純で「見たら払う」「見なければ払わない」というごくごく常識的=自然法的な状況にしてほしい、ということです。また高齢者や外国人を狙い撃ちし、深夜でも訪問し居座るなどといった、集金人の悪行の数々に対する国民の怒りが表明されたということでしょう。

 

このようにN国に投票した(私も含む)有権者が期待していたのは、立花氏が国会議員として、国会で関係閣僚・関係省庁に厳しい質問することや、憲法上国会議員に保証された国政調査権(第62条)に基づいて、質問主意書などを含めて、現行の受信料制度の問題点をあらゆる手段を用いて追及するといったことではなかったでしょうか。また自民党などとの取引も考えられます。

 

もちろん、国会議員一人ではいきなり法律を変えることはできませんが、「国民から選ばれた代表」としての、他の国民が絶対に有していない権限を用いて、少しでも現行の受信料制度の解体に向けた活動を、投票した有権者は期待していたはずです。

 

しかし、立花氏はその、有権者から本来期待されていた仕事を放り出して、埼玉県補選に立候補し、国会議員としての職を意図も簡単に放り投げました。これは、N国の唯一の公約でもある「NHKをぶっ壊す」を放り投げたといっても過言ではありません。

 

もっとも、立花氏は比例代表で当選したので、別のN国の候補者が繰り上げとなりました。もし埼玉補選に勝つことができれば、議員数は2名となりますが、さしたる違いはありません。そしてあろうことか、補選の選挙運動期間中に「海老名市長選挙に立候補する」とまで表明しました。

 

これで、もうN国のシングルイッシューの放棄は確定的となったといえるでしょう。あくまでも放送法は国会が作った法律ですので、それを変えることができるのは国会、すなわち国会議員のみです。「NHKをぶっ壊す」ための政党であるN国の地方首長や地方議員の存在価値は、あくまでも今後の国政選挙で、国会議員を一名でも多く輩出するための基盤づくりにしかありません。

 

それにもかかわらず、あろうことか党首自身が、せっかく得た国会議員としての地位を放棄した後に「地方首長になる!」と言ってのけるのは、N国自体の存立基盤であるその「シングルイッシュー」を放棄したといっても過言ではありません。

 

このことについて、以下のサイトでは「立花孝志代表は「議員になりたいんじゃなくて、選挙に立候補したいオジサン」なのです。NHKはぶっ壊しません。」と指摘しています。言い得て妙ですね。

 

【選挙ウォッチャー】 NHKから国民を守る党・動向チェック(#113)

 

議員というのはあくまでも有権者に選ばれた存在。その選んだ人々の期待に背けば、どうなるのかは、別にN国でなくとも、他のどの政党でも同じです。当のNHKも「ここまで早く自壊したか?」と喜んでいるのか、それとも、裏工作の結果なのか……

 

「元」国会議員としての立花氏には大きな疑問が呈されますが、豊かな債権法の知識を持って、合法的なNHK受信料支払い拒否の方法について、動画を通じて広く国民に知らしめた功績については、大いに評価すべきかと思われます。

 

もしかすると、その知識の拡散によって、NHKの受信料収入の低下(=ぶっ壊す)を狙っており、その拡散方法として選挙をあえて選んだ(議員活動はどうでもいい)……というのは読みすぎですかね~

 

(補足)ちなみに、参院比例区で、N国の立花氏個人票は、99万票中の13万票と約1割に過ぎなかったものの、れいわ新選組の山本太郎氏の個人票は総数228万票中の99万票と約4割でした。「山本党」たる所以ですね。

 

こうした選挙結果分析をおろそかにして、「N国=立花人気」だと思っていたところ(むしろ国民はとにかくNHK受信料制度を何とかしてほしいと思っていた)、これも結果として「メディアに踊らされた」ということなのでしょうか? 私も立花氏自身の政見放送自体の意義は認めましたが、あくまでもN国として投票しました……