民主主義の真価が問われるブレグジット(イギリスのEU離脱)

世界で稚内が一番大好きな大学教員、アーサーこと浅川晃広です! 稚内で移住希望者向けのシェアハウス「キックスタート!」を経営しています。

 

民主主義、議会制民主主義発祥の国のイギリスでは、現在ブレグジット(イギリスのEU離脱)をめぐって混乱が続いています。

 

現離脱等党首のナイジェル・ファラージ氏が党首であった英国独立党が、EU離脱を公約に掲げ、その支持が高まってきたところ、当時のキャメロン保守党政権は、その是非を問う国民投票の実施を約束し、これが実際に2016年6月23日に行われました。

 

これは国民投票当日の大衆紙、ザ・サンの表紙です。イギリスのメディアは政治的立場を表明することが多く、この新聞は明らかに離脱派でした。映画「インディペンデンス・デイ」をもじっているもので、右上に「今日、あなたはイギリスをEUの制約から解き放つことができる」、右下には「今日、あなたは歴史を作ることができる。ブリュッセルの圧倒的な権力から英国の独立を勝ち取ることによって」と記載されており、離脱への投票を呼び掛けました。

 

メディアの世論調査などでは「残留派が勝つ」と言われていたのですが、離脱派が約52%の得票を獲得し、勝利を収めました。この段階で、国民の意思として「離脱すべき」という意思が明確に固まったはずなのですが、2019年9月の今現在でも、離脱をめぐって混乱が続いています。

 

離脱派の勝利を受けてキャメロン首相は辞任、後任にメイ首相となりましたが、保守党内をまとめることができず、2017年6月、いきなり選挙に打って出たものの、労働党が議席数を伸ばし、ものの見事に敗北し、保守党では過半数を維持することができず、諸派の協力を得て何とか政権維持できるところまで追い込まれました。

 

「国民投票で民意が示されたのに、何をやっているのか」という世論が高まり、今年5月の欧州議会選挙では、再びファラージ氏の率いる離脱党が、最大得票の約3割を獲得し、再び「国民は離脱したい」という民意が示されました。そして、もともと離脱派であったジョンソン氏が今年7月に首相に就任しました。

 

これで一気に離脱か? と思いきや、離脱に反対の野党労働党はもちろん、保守党内の残留派の議員たちが、交渉延期を首相に義務付ける法案を採決させたり、議会解散動議を葬り去る(イギリスでは3分の2の得票が必要)など、首相と議会の対立が続いています。ジョンソン首相に反対する議員たちは「議会軽視だ、民主主義軽視だ」と言っています。

 

果たしてそうでしょうか? そもそも議会がなぜ立法権限を与えられているのかというと、それは国民から選ばれた代表者たちで構成されているからです。つまり、間接的に国民の意思が議会に反映されているからこそ、議会で制定された法律は「みんなで決めたルール、だから従おう」ということになります。

 

ところが、EU離脱をめぐっては、全国民にイエスかノーかを表明する機会が与えられ、イギリス国民の過半数以上が「離脱すべき」と言ったのです。はっきり言って、すべての議論がここで終わってしまうのです。すなわち、国民が直接の投票で、離脱したい、といったのであれば、本来国民の代表であるはずの議員は、その民意をまずもって尊重しなければならないはずです。

 

ところが、イデオロギー的に残留支持なのか、それともイギリスがEUにいることで、何かの既得権を得ているのか知らない人々が「国民投票で負けたけれども、何とか離脱を妨害したい」となっているのが現在の状況といえます。

 

つまり、離脱を妨害する残留派こそ、国民投票による民意に反対するという、「民主主義軽視」を行っているわけです。

 

イギリスのEU離脱国民投票もそうですが、近年、国家の重要事項について、国民投票が行われることが増えてきていますが、これは有権者は「議員は自分たちを代表していない」という意識が高まっているからではないでしょうか。イギリスの混乱は、そうした国民・対・国民を代表していない議員達、言い換えれば、庶民・対・既得権者という対立軸が設定されているように思われます。メディアの論調の多くも「離脱反対」ですが、これは彼らも「既得権者」の側なのでしょう。

 

ネットのない時代であれば、民意を反映させるには、数年に一回の選挙を通じてでしかなかったのですが、それこそ、今ではネットを使って、全国民の賛否を問うことも技術的には極めて容易になったと思われます。となると「民意の代弁者」たる国会議員はもう不要となってしまうわけです(日本では憲法上保証されてますので、すぐにはそうなりませんが)。

 

これは間接民主主義と直接民主主義とのバランスの取り方の問題だと思われますが、議会制民主主義を数世紀にわたって発達させてきた、イギリスという国の真価が、今まさに問われていると思われます。直接の民意が結果として反映されるのか、それとも葬り去られるのか、民主主義の根幹にかかわる問題として、我々日本国民も大いに関心を持ちたいところです。

 

あと、離脱党のこのPVが、この問題の本質を如実に示してます。英語の分かる方はどうぞ!