引き続き、豪州選挙分析です。
まず、以下は、5月18日(土)深夜のモリソン首相による勝利演説の最重要部分です。
豪州国民は毎日懸命に仕事をしてきた。国民は夢を持ち、向上心を持って、仕事を得て、職業訓練を受け、ビジネスを開始し、素晴らしい人に出会い(注:夫人について言及)、家族を持ち、家を買い、懸命に働いて子供のためにできる限りのことをしている。退職に備えて貯蓄している。退職した際、懸命の働いたのだから、それを楽しむことができるようにしている。こうした静かな豪州人(Quiet Australian)が、今夜、大いなる勝利を収めたのだ!(大喝采)
「こうした「静かな豪州人(Quiet Australian)が大いなる勝利を収めた」ですが、この部分がこの選挙の本質を見事に表しています。本日5月22日のオーストラリアン紙の一面(写真)においても「静かな豪州人は大声ではっきりと聞き届けられた(Quiet Australians heard loud and clear)」となっており、「静かな豪州人」が今回の選挙の主役であったことが示されています。
では「静かな豪州人」とはどういった意味でしょうか? すでにこのブログでもこの選挙の本質として「イデオロギー的環境保護運動の否定」「階級闘争路線の否定」であったことを指摘しました。こうした運動を展開する人々が、いわゆる「うるさい少数派」、英語で言うところのNoisy Minorityと言われる人々です。
すなわち、メディアやSNS等で声高に、こうした主張をするので目立つことは目立つのですが、国民から遊離した少数派であることが多いといえます。特に労働党が大敗を喫した北部クイーンズランド州内陸の鉱山開発の反対を声高に叫んでいた運動家も含まれます。選挙前の一部報道では、あたかもこうした運動家が国民世論を代弁しており、よって鉱山開発を進める立場にある与党・保守連合が敗北すると、勝手に「思い込んで」いました。
しかし、メディア等に出てくることはない、一般国民、とりわけ中低所得者は、鉱山開発に伴う雇用増加とった経済的効果を最優先して、国民の生活・雇用を無視したイデオロギー的環境保護運動を否定し、環境保護運動に近い労働党が敗北しました。すなわち、こうした表立って声を上げることができない一般国民、すなわち「静かな豪州人」が投票行動によって、「うるさい少数派」に対してノーを叩きつけたのが今回の選挙ということでした。
これは「うるさい少数派」の反対語として、「沈黙した多数派」(Silent Majority)というものがあり、まさにこれをモリソン首相は「静かな豪州人」と表現したのでした。これはもちろんのこと「うるさい」と「静かな」という相違でもありますが、さらに踏み込めば、「メディアを支配する金持ちのエリート」と「一般国民」という所得階層上の格差も意味しているとも言えますし、「恵まれた都市部」と「経済的に苦しい地方」といった、都市と地方の格差という意味も内包しているとも言えます。
いわば「静かな豪州人」と表現された人々は、日本語で言うところの「庶民」と近いものがあり、その庶民と遊離したのが労働党や左派の運動体であり、一方、その庶民の声を聴き、支持を取り付けたのが、保守連合とモリソン首相だったといえるでしょう。いわば、今回の選挙はサイレントマジョリティ、すなわち庶民による、少数のイデオロギー的運動家に対する勝利であったということを示しています。
豪州は義務投票制のため、投票率が登録有権者の約9割というかなり高いものがあることとも密接に関連して、選挙を通じて民意が反映される度合いが高いといえます。まさに今回の選挙は、「静かな豪州人」「サイレントマジョリティ」「庶民」による偏った運動家に対する勝利だったということが示されています。
そうした庶民を「静かな豪州人」と名付けたモリソン首相のネーミングセンスも素晴らしいものがあります。これは、まさに庶民の要望を的確にとらえることができるという政治家としての優れた能力の反映とも言えるかと思います。
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